第3回ベルギー王国ビール探訪記(9)
5日目(1)
  
1.ボステールス醸造所
2.ボステールス醸造所
3.デンデルモンドでボステールス家と一緒に昼食

ボステールス醸造所へ

グラン・プラス
(中央の細長い建物が醸造博物館)
※クリスマスの片付け中

  ベルギー5日目である。午前10時集合。私の体調は復活していないが、集合前にグラン・プラス付近を散策。昨日の雪も解け、路面が濡れている。天気は晴れのよである。ビア・ショップのビア・テンペルはまだ開店していない。店頭のショーウインドウを眺め、見知らぬビールがあることに感激する。滞在中には購入できるであろう。
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 本日は、パウエル・クワックPauwel Kwakで有名なボステールス醸造所Brouwerij Bosteelsを見学後、メッヘレンMechelenのビールスポットを回る予定である。しかし、昨日も一昨日も醸造所の多大なるもてなしの結果、予定どおりいかなかったので、この日もどうだか。
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 午前10時にブリュッセルを出発。運転は山田さん、助手は藤原さんというのは昨日と同じ。A12をまっすぐ北のアントワープ方面に向かう。途中の町、ブレーンドンクBreendonkから道を左に入る。ブレーンドンクにはデュヴェルDuvelで有名なモルトガット醸造所Brouwerij Moortgatがあり、そこが丁度目印になっている。しばらく行くとN17に出会い左折。N17を西に走行する。目的のボステールス醸造所はブヒェンハウトBuggenhoutという町にあるが、途中右折するとサン・アマンドSt.Amandsという町に行く標識を発見し、ブリュノー醸造所Brasserie de BrunehautのAbbaye de St.Amand(東京の潟gーシン・ブラッセルズで輸入しているアベイビール)というビールと関係があるかと思ったが、あとで調べてみるとSt.Amandはエノー州にある別の町の名で関係がなかった。

Duvelで有名なモルトガット醸造所Brouwerij Moortgat。
ここを左折する。この建物はデュヴェルの貯蔵庫。
壁には
《SSST…HIER RIJPT DEN DUVEL/
シッ…(静かに)! デュヴェルがここで熟成している》と書かれている

途中地元の人に道を聞きながら、ブヒェンハウトBuggenhoutに無事到着。町の繁華街を過ぎ、しばらく行くとボステールス醸造所に辿りつく。
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ボステールス醸造所

ボステールス醸造所の中心に建つ館

   醸造所の門を入ると、貴族的な館が中央に建っている。案内に出てきたのは、この醸造所の若き6代目、アントワーヌ・ボステールスAntoine Bosteelsさんである。ボステールス醸造所は1791年創業の醸造所である。パウエル・クワックPauwel Kwakのほか、近年トリプル・カルメリートTripel Karmelietというアベイ・ビール風なビールを造り話題を集めている。

 館の回りを取り囲むように建物があるが、醸造設備がある建物は館の裏にある。まず醸造釜のある建物から見学する。建物の入口付近では、モルト滓をトラックの荷台にスコップで移す作業をしていた。どこの醸造所も同じで近隣の農場や牧場に引き取られていくのであろう。

 建付けの悪い扉を開けて建物の2階に上がると、そこには銅製の釜が3基備え付けられていた。一段高いところにある大きな1基では糖化した麦芽をろ過し、釜が設置された低部に設えられた10本の蛇口から麦汁が出てくる。この釜でろ過されたモルト滓はトラックの荷台に積まれ売られていくのである。この麦汁は下の2基ある煮沸釜に送られ、ホップが加えられ煮沸される。ホップはペレット(小さな円筒形に圧縮したもの。鞠花のホップの約4分の1に圧縮)のものを使っているが、なにか動物のえさのような形だ。ホップのほかにキャンデーシュガーが加えられるとのことだが、我々が訪ねた時はまさに、袋の封が切られた白いキャンデーシュガーの袋が何袋も並べられて、頃合を見計らって釜に投入しようとしているところであった。こんなに氷砂糖を入れると麦芽の味がしなくなってしまう気がするが、クワックのすっきりした味わいの秘密はこんなところにあるのかもしれない。

銅製の醸造釜。キャンデーシュガーをこれから入れるところ。 白いキャンディシュガーを使う。
ペレットにされたホップを使っている 上下2段に釜がある

 糖化した麦汁はこの建物を出て、反対側にある建物に移す。こちらの建物では発酵以降の作業が行われている。発酵タンクで発酵している間は、酵母が糖分を分解し二酸化炭素を活発に発生させる。タンクから発生する炭酸ガスは集められ、パイプを通って水の入った小さな桶の中に入れられる。二酸化炭素が発生中は水がゴボゴボと泡立つので、酵母が活動中であることが判る。炭酸ガスは空気中に逃がさないで、貯めたガスはビールが空気に触れ酸化しないようにいたるところで使われるのである。
 発酵が終了するとビールは熟成タンクで熟成し、ろ過されて貯蔵、瓶詰めという工程となる。

発酵中
ろ過機

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 この建物の入口には昔の使っていた醸造道具等が飾られていたが、現在は見学を受け入れていないが、近いうちに一般の見学も受け入れられるように考えているということである。我々は、初めてこの醸造所を見学した日本人だということである。
 建物の2階は醸造所の事務所になっている。
この建物自体が古いフランダースの伝統を残した建物になっていて、天井の梁の組み方や壁のレンガの積み方に特徴があるという。特にレンガの積み方が新しいか古いかの見分け方として、昔のレンガの積み方は、大きいレンガを1段積むとその上の段にはその半分の大きさのレンガを積み、その上にはまた大きなレンガというふうに大小交互の段になるように積まれているのだそうだ。現在は同じ大きさのレンガだけで積まれるということである。

この建物の1階が発酵以降の設備がある。2階は事務所になっている。 フランダースの伝統を残す天井の梁の組み方。そして大小交互の段になるように積まれたレンガの壁。

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 建物を出ると、館の正面にあたるところまで戻ってきた。そこは今で言う駐車場になっていて、綺麗に手入れがされた馬車やビールを運んだ荷車などが展示されてある。馬車は3台あり、それぞれ御者が腰掛ける椅子の足元に注目。そこにはパウエル・クワックのグラスが木のはめ具とともに取りつけられているではないか。これぞクワックには特殊な形状のグラスが必要だったという証である。
 先にパウエル・クワックというビールの由来について書いておこう。パウエル・クワックPauwel Kwakという人物は、19世紀初頭、この地方では有名な醸造家であり、かつ駅馬車の停泊所を経営していた。パウエル・クワックが醸造する8%の高発酵ビールを飲むことはここに停泊する御者たちにとっては一つの儀式のようになっていた。当時はナポレオン法典により御者が乗客と共に宿屋に入ることは禁じられていたので、馬車につけた輪に掛けることができるような形にデザインされたグラスにビールに入れて飲むのが慣わしであったという。いつしかこのビールも無くなったが、近年このビールを復活させると同時にグラスも復活させたということである。
 ということで、クワックのグラスの謎が解け、蔵元まではるばる来た甲斐があったというものである。
 これらの馬車は近い将来、一般見学用の単なる展示品としてではなく、現在も機会があるごとに実際に使用しているということで、このあと館の中で話を伺う中で、その実際に街中を馬車で走っている写真を2枚見せてもらった。

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 6代目アントワーヌ・ボステールスさんの熱心な説明を受けたあと、中央の白い館の応接間に案内された。部屋では、ボステールス家の5代目にあたるアントワーヌさんのおやじさんに我々は接待していただいた。
 この醸造所で製造しているパウエル・クワックとトリプル・カルメリートの2種類をいただく。注ぎ方はこうだと言わんばかりにショーアップされた注ぎ方に我々の目もその注ぎ方にくぎ付けにされた。

トリプル・カルメリートはこのように注ぐのだそうだ パウエル・クワック トリプル・カルメリート 8%

 私はある程度ビールを飲んだところで、クワックを変わった形状のグラス飲んでいるところを辻村さん写真に納めて欲しいと伝えると5代目のおやじさんは「ダメダメ、グラスのビールがないじゃないか。新しくビールを注ぐまで待ってなさい。」といって私の写真のために新たにクワックの瓶を開けて注いでくれた。

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 パウエル・クワックについての由来についてはすでに述べたので、それ以外に記述すべきこととしては、3種類の麦芽と白いキャンデーシュガー、3種類のホップを使用している。色は豊かな琥珀色でろ過されて透き通っている。フルーティな香りと麦芽の味わいがある。館で注いでいただいたものは瓶だが、フレッシュでなめらか★★★。
 トリプル・カルメリートTripel Karmerlietは、隣の大きな街デンデルモンドDendermondeにあるカルメル修道院(1679年〜)の伝統的なレシピに基づいて造られている。すなわち小麦、大麦、カラス麦とそれぞれの麦芽とホップ(スティリアン・ゴールディング)で造られる。トリプルということで、瓶内発酵もさせるので濁っており、香りが高くスパイシーである★★★。このビール専用のグラスは6代目アントワーヌさんがデザインしたということで、ベルギーのビールグラスでは特に大きく、かつクリスタルということでグラスとグラスをぶつけると高い音色の音がする。ガラスの厚さも薄いようである。グラスに描かれた模様は百合の花だという。なお、アベイ・ビール的だが、アベイ・ビールではない。
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 さて、お昼がすぎ、「みんなで食事にしましょう」ということで、食事はどこかレストランに連れていってくれるらしい。その前に 館を出るとき、クワックとトリプル・カルメリートのグラスとビールの箱詰セットを我々全員に対し1セットづつという大サービスぶり。5代目は昔かたぎの豪勢なおやじさんのようである。感謝をしながら、山田さんに「みなさん、どうやって日本に持ちかえりますか?」と言われて、2箱もバックには入らないので本当に困っていたのは私だけではあるまい。
 ボステールス家の2人が乗る車に先導され、我々の車はそのあとを着いていく。行き先は隣の大きな街のデンデルモンドであった。   

【データ】 Brouwerij Bosteels(Kerkstrraat 92, B-9255 Buggenhout)
Tel;52/33 22 82 Fax;52/33 59 59

デンデルモンドでボステールス家と一緒に昼食

デンデルモンドにあるカルメル修道院
レストラン 't Truffeltje

   デンデルモンドの川沿いの駐車場に車を置くと、そこからは、ビールの名前の基になったカルメル修道院が見えた。実際に修道院があるのにアベイ・ビールでないという不思議。
 5代目が予約していた店はレストラン 't Truffeltje。フランスも含めた20数人で構成するフランス料理の若いシェフ・グループ(JEUNES RESTAURATEURS D'EUROPE)があって、その一人がやっている店ということで、デンデルモンドで一番のレストランに我々を連れてきてくれたようである。
 飲み物は、料理との相性が考慮されているかは不明だが、「クワックかトリプル・カルメリートのどちらにしますか」という5代目の言葉だったので、最初にクワック、次にトリプル・カルメリートの順にビールをいただいた。ビールは瓶で出て来て、それぞれ自分でグラス注がねばならないようで、さきほどの5代目の注ぎ方を頭に描きながら注ぐと、とりあえず注ぎ方についてはOKサインが出て一安心。
 この店で食事をしながら、再びビール談義が続くが、今度はどちらかといえば日本でのビール事情や売り込みといった商談的要素が増えてきた。
 6代目アントワーヌさんは、ボステールス醸造所が98年のフーデックス・ジャパンに出展したとき、来日したことがあるという。日本では京都を観光したというが、新幹線で東京から京都まで見えるものは「ハウス、ハウス、ハウス」ばかりだったとおやじさんに話すと、一体日本はどういう国なんだと言わんばかりの目をして驚いた。日本食べ物で印象に残っているものはというと「シャブシャブ、スシ、サシミ、クシアゲ」だという。料理にでた肉の話から、松坂牛を例えに「日本の牛はビールを飲みます」という話をすると5代目のおやじさんは「牛がビールを飲むわけはないじゃないか。」といって大いに笑って、からかっているんじゃないかと思ったようだが、みんなで「本当なんです」というと、ますます「日本とは変な国だ」と誤解されたようで、そんな国には行きたくないと思ってしまったかもしれない。
 この日も体調が悪いので、出てくる料理はどれも本当に素晴らしいのであるが、食欲が出ない。右隣に座っている5代目のおやじさんは見ていると本当によく食べている。左隣の6代目アントワーヌさんもそれに続いて食べている。我々一行は体調不良者続出で、たまたま食べられなかったのだが、それが5代目には「日本人は小食な民族」と写ったようで、さらに誤解を招いたようである。身体の大きな私に対して「そんなに大きいのになぜ食べないのか」と不思議に思っているらしく、どんどん遠慮無く食べなさい、飲みなさいと何回も勧めてくれる。デザートのチョコレートなどのお菓子が出てきたときも、親切に私と山田さんの奥様の皿に「これは美味しいですよ」とお菓子を取ってくれるのである。

シェフのPaul Mariënさん
胸にはクワックの王冠バッジが!

さて、隣に座っていたおやじさんの胸をよく見ると、パウエル・クワックの王冠をバッジにして付けていた。山田さんの奥様もそれに気がついて興味を示したところ、そのバッジを「あげましょう」と取り外して、差し上げた。王冠の裏に安全ピンを取り付けたものだが、会社のバッジの代わりに王冠を着けるとはなかなかである。

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 食事も終わり、店を出ようとするとき、5代目のおやじさんは、店を出るとき、「この店のシェフを紹介しよう。」といって調理場にいたシェフを呼んできた。すっかりなじみの店なのであろう。非常に美味しかった旨を伝え、店を後にした。このデンデルモンドの街でボステールス一家とはお別れした。 

【データ】 'T TRUFFELTJE(Bogaerdstraat 18-20, DENDERMONDE)
Tel:052/22.45.90 Fax:052/21.93.35.
http://www.truffeltje.be/

(つづく)


4日目(2) 5日目(2)

ベルギービールの魅力
酒蔵奉行所関連

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