第3回ベルギー王国ビール探訪記(8)
4日目(2)
  
3.シメイ修道院での質疑
4.直営レストラン:L'AUBERGE DE POTEAUPRÉ
5.シメイ城

シメイでの質疑

 さて、最後に試飲室でシメイ・ビールの試飲と質疑応答の時間である。まずは「ブルー、ホワイト、レッドそれぞれ好きなビールを言ってください。」とのこと。私は具合が悪く、到底ビールを飲める体調ではなかったのだが、シメイ・ホワイトをお願いする。注ぎ方のコツは、グラスを少し斜めに傾けて、ゆっくり一気に注ぎ、最後の1cmほどをボトルに残すこと。グラスの脚を持って注ぐこと。
 やや常温に近いので聞くと、「この温度が最適」という。シメイの正式なインフォメーションによれば、理想的な賞味温度については、シメイ・レッド、ブルーはできれば蔵の室温、すなわち10℃から12℃で、本来の豊かなこしと風味が味わえ、シメイ・ホワイトは、より低温の6℃から8℃ということである。フルーティな香りがあって、非常にまろやかな味わい、スムーズなのど越しである★★★★。現地で飲むとこんなにも異なるのかと実感する。   

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 さらにいつくかの質疑・応答をまとめて記載しよう。


《ホワイトに対するトリプルTRIPELの表示》

変更前(左)と変更後(右)

 ホワイトのラベルにトリプルTripleの表示が最近加わったので、その理由を尋ねると、「トリプルには白の意味があるので、わかりやすくするため」なのだという。同じトラピストビールであるウエストマーレ・トリプル(トリペル)が有名になったので、それに準じてホワイトにトリプルの表示を加えたということだと思われるが、決してトリプルに白の意味があるわけではない。
 悪いと思いながらもホワイトを半分残し、今度はブルー1998をお願いする。
シメイ・ブルー1998は、やはり常温に近い温度で供され、まろやかな口当たりである。ビターだが、甘味も感じる。ここで味わう以上の最良の状態のシメイ・ブルーはないだろうと思う。当然★★★★の満点。   


《トーマス神父がビール醸造に関わるようになったいきさつ》

質問に答えるトーマス神父(右)
ウェーバー輸出部長(左)

 院長(Abt)がトーマス神父に対し「お前はお酒を飲まないから、ビールを作れ!」といったという。トーマス神父は糖尿病で、アルコールを摂取してはいけない身体なのだという。「ビールを飲めない人間にビールを造らせておけば安心だ」ということである。


《お薦めのシメイ・ビール》

 シメイ・ホワイトはホップが他のビールの4倍入っているので苦い。海老沢さんはホワイトが大好きだという。シメイ・ブルーはワイン感覚で味わっている。ホワイトは小瓶を飲むのが良く、ブルーは大瓶かマグナムの方がまろやかで旨いという。


《シメイ・ブルー・マグナムになぜヴィンテージが入っていないのか》

シメイ・ブルーの小瓶や大瓶にはヴィンテージが入っているのに、マグナムには入っていないのはなぜか尋ねると、「マグナムは1本1本カートンに入っている。箱の印刷と中の瓶のラベルのヴィンテージが異なったときに苦情がくる。もしヴィンテージを入れれば箱と中身のチェックにコストがかかるため。」だという。また、「マグナムでもコルク栓にはヴィンテージが入っているから判るはずである」という。
 なお、マグナムは現在ワインのボルドータイプの瓶に詰められているが、近々シャンパンタイプのボトルに変更する予定であるという。


《トラピストビールのロゴ》

 「最近トラピストビールに共通したロゴが入りましたね?」と聞くと、「レフLeffeに代表されるようにトラピストとアベイが混同されている。シメイCHIMAY、オルヴァルOrval、ロシュフォールRochefort、ウエストマーレ Westmalle、ウエストフレテレンWestvleteren、そしてオランダのトラッペTrappe(コニングスホーヴェン修道院)の6つのトラピストビールは修道僧の管理により生産され、ビール事業を通じて自活を満たすとともに、余剰の利益は地域社会への奉仕と慈善事業、ザイールやインドなど低開発諸国の貧困住民への救済と援助・振興、など社会奉仕活動のために使用している。6つの修道院で醸造される製品を守るため、共通のロゴを作った。「トラピスト・ビール」の名称と商標の使用は法律で保護されていている 」という。これに対し「トラピスト・タイプ(アベイ・ビール)は修道院とのライセンス契約により、個人(企業)の営利の追及だけを目的とした民間の工業的に醸造されているビールである。得た利益を何に使うかが大きく異なっている。ただし、トラピストに対抗して、トラピスト・タイプの方も何か考えているようだ。」という。
 なお、ウエストフレテレンのセント・シクタス修道院St.Sixtusとシメイのスクールモン修道院は兄弟関係にある修道院で、ウエストフレテレンの方が兄貴分(格が上)ということである。
 また、スクールモン修道院はビール生産により得た利益が大きく、その分ローマ法王庁に納める上納金も多いので、その関係でローマから偉い僧侶が派遣されてくるのだそうだ。ローマで定年を迎えたような僧ということで、ローマからすると一種の天下り先となっているという。


《テイスティング専用グラス》    

 さまざまな話を伺って、この部屋を退出しようとした時に、机に置かれている黒いグラスに気が付いたので、尋ねてみると「これはテイスティング用のグラスです。色に惑わされないように黒いグラスで行うのです。」という。黒ガラスに白字でCHIMAYと書いてある。

スクールモン修道院

 醸造所の見学が終わり、建物を出る。トーマス神父に別れを告げ、我々は車で醸造所を離れたが、最後までトーマス神父は手を振って我々を見送ってくれていた。

 車は醸造所を離れたが、修道院を4分の1周して、今度は修道僧の生活・信仰の場である修道院の本館に向かう。
 修道僧らの労働は、1日に4〜5時間に限定され、朝4時半から始まり夜8時半に終わる1日の残りの時間は、勉学を通じて神を求め、静寂し、そして祈りのために費やされている。農耕作業が中心の彼らの労働は、あくまで、生計を立てるために、そして教義にあるように、困窮にある他人を救済するためのものである。

【データ】 Brasserie de Chimay /L'Abbaye Nortre Dame de Scourmont
(Rue de la Trappe 294, Forges-les-Chimay)
Tel;060 213063 Fax;060 214019
http: http://www.chimay.be/

直営レストラン:L'AUBERGE DE POTEAUPRÉ

 修道院を出て、今度は修道院直営のレストラン:L'AUBERGE DE POTEAUPRÉに向かう。レストランはシメイの街と修道院との間にある。修道院のある丘一帯は、夏なら広葉樹の森、牧草地、川、なだらかな草原といった風景が広がる地帯である。夏にはベルギー国内はもとより近隣の国々からもこの修道院を見学しに来る人が絶えないという。そうした人達が利用できるように修道院とは離れた場所だが、宿屋とレストランを開設している。冬の時期には営業していないが、我々のために特別に開業してくれたのだという。

 私は、メイン料理に地鶏を選択した。供された料理はどれも素晴らしいものであったが、残念ながら最悪の体調となってきて、悪寒と発熱、頭痛もする。じっくり味わって食したとはいえない。
 それでもシメイ・ビールだけはレッド、ホワイト、ブルーの3種類をちゃんと味わった。シメイ・レッドには強さがない(といっても7%)ので飲みやすい。まろやかできれい★★★。

直営のレストラン この方がシェフ 左からレッド、ホワイト、ブルーを味わう

 供されたもので、修道院と関係があるものとして、シメイ・チーズがあった。
 チーズはビールとともに重要な修道院の生産品で、街中のスーパーのチーズ売り場でもよく見かける有名なものだ。1876年からチーズ工場を持ち、現在、セミハードタイプの「グラン・クラシックGrand Classique」(新鮮なミルクの味のするクリーミイなタイプ)と「ロー・ミルクraw milk/au lait cru」(無殺菌ミルクをベースとする伝統的作り)、ウォッシュタイプの「ウイズ・ビアwith beer/a la biere」(シメイビールで表面を洗いながら熟成)、そして、ハードタイプの「オールド・エイジドOld aged/Vieux」(6ヶ月熟成)の4種類のチーズを生産している。当然とも言えるが、シメイ・ビールに一番合う食べ物はシメイ・チーズであるという。

フロマージュの料理 シメイ製チーズ4種類の盛り合わせ 地鶏にジャガイモ、ニンジンが
添えられている

 海老沢さんによれば、シメイ・チーズは日本でも求める声が非常に大きいのであるが、日本で丁度チーズの食べごろになるように出荷することが不可能だという理由で、輸出できないのだという。それに対して「麻布のナショナルマーケットで購入したことがあるんですが。」と私が言うと「それは、フーデックス・ジャパンの時、最後に潟`ェスコに差し上げた物で、(ほとぼりが冷めるまで)1年間置いて売りに出したんでしょう。」とのこと。

 食事に十分満足したあとチーズが出されたので、ほとんど全員がチーズを食べきれなかった。海老沢さんの配慮で「持ちかえれるように頼んでみましょう」ということで、サランラップに包んでもらう。 

【データ】 L'AUBERGE DE POTEAUPRÉ(Rue de Poteaupre, 5 6664 Bourlers)
Tel : 32 (0) 60 21 14 33-/Fax: 32 (0) 60 21 44 04
http://www.chimay.be/www/chimay/site8/en/p.auberge/p0_frameset.htm

シメイ城

 レストランを後にした我々は、海老沢さんの特別な計らいで、シメイの街のシンボルであるシメイ城の見学が出来ることになった。シメイの街の中央広場まで来ると、ここでウェーバーさん、シモニスさん、海老沢さんとお別れである 。粉雪が舞い出し、かなり寒くなってきた。
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 シメイ城Chateau de Chimayは、現在もベルギーで3家しかないという公爵が住んでいる城。城主は、プリンス・ド・シメイPrince de Chimay。広場からお城の入口まで長い通路があり、やっと門に辿りついたあとも、門からお城の玄関までまた遠い。玄関を叩くと、出迎えてくれたのは城主の母君。元?プリンセスである。中に入るとそこは貴族の家。おびただしい絵画が壁いっぱいに掛けられている。シメイ家代々の肖像画やイタリアのティツィアーノTitienが描いたヴィーナスの絵やナポレオンにまつわる品などもある。国王が来城した時の写真なども飾られている。部屋がいくつもあって、どの部屋も装飾や調度品やら凄いのであるが、このお城が他の貴族の館以上に凄いと感じさせられたのは、城内の劇場である。
タリアン劇場Theatre Tallienと名づけられたこのホールは、ロココ調に装飾が施され、本当にみごとである。ロイヤルボックスをはじめとしたボックス席、ステージ背景の絵、天井画、赤い絨毯を敷き詰めた床。我々はしばらく時を忘れてこの空間に見とれていた。

シメイの街 案内してくれたのは城主の母君 シメイ家代々の肖像画
タリアン劇場Theatre Tallien

 なお、城主のシメイ公爵は、Prince de Chimayブランドの高級チョコレートを造る会社を経営されており、3月に開催された「フーデックス・ジャパン'99」において、ベルギーの出展者として来日された。プリンス・ド・シメイのブースを伺うと公爵がおいでになり、たまたま与力が持参していたシメイ城見学時の写真をお見せすると、「シメイ城にいかれましたか?。写真に写っているのは、私の母上です。」と愛想よく言葉をかけていただいた。
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 さて、見学が終わりシメイ城を出ると、外は本格的な雪に変わっていた。
 フランスとの国境から数qしか離れていないこの街を出てブリュッセルに向かう。計画では早くシメイの見学が終わればモンスMonsに寄ってから帰ろうというものであったのだが、予想を越えた海老沢さんたちシメイ側のもてなしにより、真っ直ぐブリュッセルに帰ることにした。運転は山田さん、助手は藤原さん。あいにくの天候と暗くなってきた道とで、帰り道に迷う。一時はフランス国境にも遭遇した。

 なんとかブリュッセルに帰ったものの、私は最高に具合が悪い状態に陥った。辻村さんに薬をもらい、そのまま部屋のベットで寝てしまった。というわけで夕食は食べずじまい。ましてやカフェに行くことなんてないし、ビールを飲むこともできない。
 この日味わったビールは、量はともかくシメイの3種類のみ。累計で39種類。過去2回、与力(仲條)とベルギーのビール探訪に来たが、その2回とも約60種類のビールのティスティングで終わっている。今回は3人であるが、どうも60種類が限界のようだと私(奉行)と与力(仲條)は悟り出してきた。
 ベッドの中でも悪寒がし、代官(古川)が日本から持参したしいたけ茶を入れてくれて、ありがたかった。今回も本当にいろいろな方からお世話になっているとしみじみ思いながら、身体の回復を待った。

(つづく)


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