第3回ベルギー王国ビール探訪記(5)


3日目(1)
  
1.ヴァン・ホンセブロック醸造所へ
2.インゲルムンステル城

 ヴァン・ホンセブロック醸造所へ

 ベルギー3日目は、ブリガンBrigandやサン・ルイSt.Louisでおなじみのヴァン・ホンセブロック醸造所NV Brouwerij Van Honsebrouckを訪問する。
 ヴァン・ホンセブロック醸造所がある西フランドル州のインゲルムンステルIngelmunsterへは、レンタカーを借り、ボア・セレストの山田さんの運転で向かう。車に乗るのは山田さんご夫妻と酒蔵奉行所の3人。TBSのお二方は、パリから直接現地に向かうとのこと(昨日はパリに行っていたようだ)。道程は、ブリュッセルからE40でゲント。ゲントからE17でコルトレイクKortrijk。コルトレイクの市内ではちょっと迷ったが、N50でインゲルムンステルIngelmunsterへ無事到着。
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熱心に説明してくれるセール・マネージャーのポール・ヴァルビエールさん

 ヴァン・ホンセブロック醸造所に着くと、TBSの辻村さんと藤原さんもちょうどコルトレイクの駅からタクシーで着いたところであった。お二方の他に、TBSパリ支局長の森田さんもパリから同行され、合わせて8名での見学となった。
 まず、応接室に通されると、ウエルカム・ドリンクということで、ヴラームス・ウィットVlaamsch Wit (Blanche des Flandres)で歓迎を受けた。我々を案内してくれるのは、セール・マネージャーのポール・ヴァルビエールさんである。「まずはビデオを見てください」ということで、応接室の大型テレビで20分ほどのビデオを拝見する。醸造所や原材料、醸造工程などが紹介・解説されていた。 
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醸造所の歴史
 1900年にエミールEmiel Van Honsebrouckにより創業した。はじめSt.Jozef醸造所といい、伝統的ラガー・ビール、テーブル・ビール、フランドルのブラウン・ビールを生産していた。1922年にエミールの息子ポールPaulとアーネストErnestに引き継がれ、1953年にポールの息子で醸造技術者だったリュックLuc Van Honsebrouck(現社長)に受け継がれた。そのときヴァン・ホンセブロック醸造所という名に変わり、高品質なビールのみ生産するようになった。
 バッカスBacchusの成功ののち、サン・ルイSt.Louis(グーズとクリーク1958)、ブリガンBrigand(1980)を生み出し、最近では1989年にカステール・ビールKasteelbier、最新のカステール・ビール・グーデン・トリプルKasteelbier Gouden Tripl、そしてK'8を醸造するというクリエイティブな醸造所である。

ヴァン・ホンセブロック醸造所
ヴラームス・ウィット
Vlaamsch Wit(4.5%)
K'8°(8%)
クリーク(Kriek)のアルコール度数8°

 最初に供されたビール、ヴラームス・ウィットVlaamsch Witは、瓶から注がれたものであったが、オレンジ・ピールの味が強く、ちょっと甘酸っぱい。それにしても日本で飲むのと違って非常に発泡感が強いのには驚いた。このときはのどをすいすい通って、あっという間にみんな飲み干していた。同じ瓶でも醸造元で飲むのと輸入品を飲むのとでは随分違う印象である★★☆。ビデオも終わり、次にK'8°という名の最新作のビールが出された。このK'8°は、この醸造所のレギュラービールであるバッカスBacchus(ローデンバッハに似たブラウンビール)にチェリーをブレンドしたものである。名前の由来を尋ねると、KはクリークKriek(チェリー)のKで、8°はアルコール度数が8%とのこと。意外と単純な意味であったが、さらにインパクトのある瓶のデザインについて聞いてみると、「若い人を意識して、若い人に受け入れられるなら、ラベルのデザインも若い人向けに変えていったほうが良いから」ということで、特に若者をターゲットとしたビールなのだという。その味わいであるが、発泡感が強くチェリーの酸味をはっきり感じるが、なんと言っても一言でその味わいを評するならコカ・コーラの味!である。

 インゲルムンステル城

この醸造所の自慢は、醸造所から200〜300mほど離れたところにあるインゲルムンステル城(The Castle of Ingelmunster)である。1986年に所有し、城の改修と庭園の整備を行い、一部を一般に公開している。この城の基礎は、640年にイギリス人の僧によって造られた修道院で、その遺跡の上に、1075年に砦が築かれたという。その後1736年に再建されたものであるが、地下のセラーは当初のままの姿を残しているという。

 みんなで行きましょうということで、お城へ向かう。歩いて5分ほどであった。このお城の正面に向かって一本の細いまっすぐに続く道があり、説明によるとこの道はローマに続いているという。日本で言えば、いざ鎌倉という感じで、各地に残る鎌倉街道にも例えられそうである。門の木戸を開け、中に入るとお城に向かう道がきちんと整備されている。驚いたのは、その美しさもそうだが、庭に孔雀が放し飼いになっていたことである。城の回りを取り巻く堀には白鳥や鴨が泳いでいる。いよいよ城内の敷地へ入る。とりあえず、お城の見学は後にして、食事を先にということで、お城の手前にある地下のレストランへの階段を降りる。

地下のレストランで昼食 建設当時の面影(天井の造り)を残す地下セラー 全員で乾杯
Kasteel Bier 1998のラベル

 地下へ行くと、まず一番奥の部屋まで通されたが、そこに建設当時の構造が残っているという。天井のアーチ状の造りとかがそうらしい。手前の部屋に戻り、みんなが席につくと、ビールと食事でもてなしを受けた。まず全員に出てきたのは、Kasteel Bier樽生である。キャンディシュガーの味がかなり甘い。いわゆるバーレー・ワインという分類のビールで、色調は暗い茶色でコクのあるタイプだ★★★。
 そして、次のビールはそれぞれ適当に好きな物を注文する。山田さんはグーズを注文。「St.Louis Gueuze Fond Traditionを期待して注文しました」とのことであるが、残念ながら出てきたのはただのサン・ルイ・グーズSt.Louis Guezeであった。ほのかに甘い程度で、フレッシュで旨い★★★。最初は普通のグーズとは違うと思ったくらいで、ヴァルビエールさんに確認しなければ知らずに飲んでいたかもしれない。他にサン・ルイ・ペシェSt.Louis Pecheも甘いがフレッシュで旨い★★☆。バッカスBacchus樽生は、熟成したワインの香りがしてマディラ風であるが、キレがある★★☆。この間我々があじわっている間、案内のヴァルビエールさんは、最初ブリガンBrigandを飲んでいた。次に何を飲むのか見ていたら、またブリガンである。よほどブリガンが好きなのであろう。私もその姿を見て、次はブリガンを注文した。ホッピーな香りと苦味があり、キレのあるビールであった★★。アルコール度数が9%もあり、ストロングでビター。極めてクリアーである。ラベルも新しくなり、以前はコクのあるビールと思っていたが、コクよりもキレのあるビールに変化していた。

カステール・ビール樽生 サン・ルイ・グーズSt.Louis Gueze ブリガンBrigand 9%
ヴァルビエールさんはこのビールが大好き?

 昼食は簡単なものであったが、ゴーダ・チーズをブリガンで洗ったウォッシュタイプのブリガン・チーズ、生ハム、牛の頭肉のテリーヌなどがお皿に盛られていた。レストランは本来夏場(7月と8月)だけ営業しているのだが、今日は我々のために特別に開けてくれたという。山田さんも「訪問するにあたってなぜかしつこく『何人で来るんですか?』と聞かれたんです。」という。でも小人数な我々のためだけにわざわざ樽生ビールを用意してくてたのであろうか。大いに感謝しながらも、ちょっとだけ疑問も感じた。

カステール・ビール1989。瓶の上・中・下で味が違う カステール・ビール1989を注ぐヴァルビエールさん ブリガン・チーズ、生ハム、牛の頭肉のテリーヌ

 さて、最後に登場したビールは、Kasteel Bierの初ヴィンテージとなる1989年である。これはこのシャトーの地下セラーで熟成を重ねた75clの瓶。ラベルが貼ってあるが、触ると端からボロボロと粉状に落ちていく。ヴァルビエールさんは静かに静かにビールをグラスにそそぐが、すごくオリがあるので、5cmほど瓶にビールを残さざるを得なかった。アルコール度数は12%。味わいはグラスによって異なっていた。瓶のどの部分が注がれたかでかなり印象が異なるのである。瓶の上の方(はじめに注がれたグラス)では、軽快なビールと感じた。瓶の中ごろでは、ポート・ワイン状で、まろやかな香りとコク、甘味を感じた。瓶の底近くでは、甘味が相当感じられた。いずれにしてももう発泡感はなく、古酒の味わいである。評価は難しい。ここまで熟成したビールに対しては敬意を表するのみである。
 このレストランのメニューには、Kasteel Bier 1989は75cl 260BFという手ごろな価格で掲載されている。
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 レストランでお腹を満たし、ややほろ酔い加減になった我々を、ヴァルビエールさんは今度は城内を案内するということで、城の内部へと誘った。まず、地下へ降りて行って案内されてのは、地下セラーである。1つの部屋には、さきほど味わったKasteel Bierの1989年と1990年のボトルが積まれていた。隣の部屋にはBrigandが同じように高く積まれていた。Brigandは寝かせるべきビールではなく、3年がピークであるという説明なのだが、このセラー内ではもっと熟成させているようである。  

地下セラーの壁に描かれたブリガン(1798年フランス革命軍を撤退させた古兵を意味する) 地下セラーにはKasteel Bierの1989と1990が積まれていた 昔の醸造光景

 セラーを出て別の部屋に移動するとそこは、博物館風にアレンジされていて、昔の醸造光景やお城の地下での調理場の様子などが蝋人形を使ってリアルに再現されていた。また、カステール・ビールの小瓶から6リットルの瓶やこのビールを50リットル造るための原料ということで、醸造水、アロマ麦芽、ロースト麦芽、ホップ、キャンディシュガー、酵母が瓶に入れられ展示されていた。

カステール・ビールの原料(左から醸造水、アロマ麦芽、ロースト麦芽、ホップ、キャンディシュガー、酵母)

 上の階に戻ると、そこは貴族の邸宅。豪華なシャンデリア、壁に掛けられた絵画、ゴブラン織の壁掛け、アンチークな調度品など、優雅な貴族生活が偲ばれる。まだ、修復中の部分があって一般には未公開であるというが、近々修復が完了すれば、公開するということである。それにしてもお城の維持管理には相当な経費をかけている。ヴァルビエールさんは、なかなかビール工場の見学に移らないままお城の案内をしているので、山田さんや我々は「いったい、いつになったら工場を見せてくれるんでしょうね?」とつぶやきながら見学をしていた。

(つづく)


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