第3回ベルギー王国ビール探訪記(4)
リエージュの朝市

2日目(2)
  
4.リエージュへ
5.ラ・ボードレー La Vaudrée
6.ブリュッセルに戻る

 リエージュへ

 ボア・セレストの山田さんご夫妻と別れた我々は、ベルギー第3の都会、ワロニア最大の都市のリエージュLiégeへ向かった 。リエージュまではミディ(ブリュッセル南)駅から列車で70分ほど。列車の時間まで少し余裕があったので、駅構内の売店で車内で飲むビールを購入した。

 車内では、サンドウィッチをつまみにさきほど買ったビールを、ガラクタ市で手に入れたウェストマーレの古いグラスで味わう。Petrus Winterbier Biere D'Hiver(NV Bavik SA)は、苦味が強いが、完全にろ過されたビールで味わいが弱い。アルコール度数6.5%★★。Tongerlo Christmas Dubbel Blondは、6.5%のビールで、朝、カフェで飲んだ同銘柄のトリプル・ブロンド(8.0%)と比べ、味わいがなく、ややクセがある。金属的な硬質感をこのビールにも感じたが、この醸造所が使用している醸造水の特徴なのかもしれない★☆。車内で飲むにはうってつけのビールは、与力が飲んでいたベルヴュー・クリークの缶ビール(5.2%)である。グラスに注がず缶から直接飲むと、口に含んだ時の発泡感が強調され、さらにフルーティでフレッシュに感じ、旨い★★☆。
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 列車の途中停車駅はルーヴェンLeuven駅だけ。ここまで約30分。駅到着直前右側に巨大なインターブルーの工場が見える。インターブルーは世界第3のビール会社で、ルーヴェンのアルトワArtois工場では、ベルギーの代表銘柄ステラ・アルトワStella Artoisの他アベイ・ビールのLeffeTripelも生産している。 

Petrus Winterbier
Biere D'Hiver 6.5%
Tongerlo Christmas
Dubbel Blond 6.5%
巨大なインターブルーの工場。ここでStella ArtoisやLeffe Tripel、Vieux Tempsなどが生産されている。

 リエージュに到着したときには、もう昼の12時を回っていた。中心部の旧市街は駅から約2q離れていて、ミューズ川沿いに歩いて行く。しばらくすると再び、すごいマーケットに遭遇。そういえば毎日曜日のリエージュの朝市も有名で、川沿いの道路数キロにわたって市場と化しているのだ。また市場かと思いつつも、午後1時を過ぎ、それぞれの露天商たちは片付け始めたところで、じっくり見ることはできなかった。
 そのほか旧市街の聖バルテルミー教会、聖パウロ大聖堂、プリンス・エベク宮殿などを巡るが、市街を一望できるビューラン山へは、さすがに登る元気がでなかった。

駅名は、リエージュ-ギュルマン駅 聖バルテルミー教会
11世紀に建造の始まったロマネスク様式の建物。
ビューラン山への373段の階段
(1875年)

 ラ・ヴォードレーLa Vaudrée

Rue St Gilles
ラ・ヴォードレーLa Vaudree。
1000種類のビールを置く店
(149 Rue St Gillesにある)

 適当に観光した後、いよいよリエージュまで来た本当の目的のカフェに向かうことにする。
 リエージュにあるラ・ヴォードレーLa Vaudréeというカフェには1,000種類以上のビールがあると、昨日入手したベルギー・ビールのバイブルとも言うべきTim WebbのGood Beer Guide to Belgium and Hollandの第3版にも記述してあった。この最新の本を手がかりに店を探した。

 それにしても、このビア・カフェに辿りつくのには苦労した。本によると、住所は'49 Rue St Gilles'とあったので、サン・ギル通りを端から1番ずつ順番にたどれば見つかるだろうと、通りの表示を探した。49番を見つけたが、そこにはビア・カフェはなかった。49番にある店は花屋のようであったが、たまたま休みである。近所の酒屋を訪ねてみたが、49番は間違いなくその場所だという。隣の47番の鍵屋のご主人に聞いてきると、「49番は間違いなくお隣だが、お前たちはどこに行くのか?」と聞かれ、「ビア・カフェ」に行きたい旨伝えると、「ちょっと、通りに出てきなさい。今、目の前をバスが通っただろう。あのバスを見なさい!」と指差し、「もう少し…もう少し…そろそろ…」そして「今だ!」と言って手を降ろし合図した。その場所の左側にビア・カフェがあるという。この的確な案内により、我々は辛うじて辿りつけたのである。行ってみると住所は149番で、本に誤りがあったというわけである。(あとで調べてみると、第3版以外他のすべての本に149番と書いてあった…)
   ★
 店は24時間営業で、明るいネオン灯の看板。店内は細長く、奥の方にはゲームコーナーもある。席数が多い割には店員が2名しかいない(はじめは1名しかいなかった)。
 入って圧巻なのは、長いカウンターとカウンターの壁に2段に設えてある約40本のビア・サーバーである。どのサーバーが何のビールなのか判別できるように、その銘柄の瓶ビールが置いてある。これだけの樽生ビールを味わえる店はベルギーでもちょっと他にないだろう。

カウンターの背には40本ほどのビア・サーバーが並ぶ サーバーのアップ写真

 ビールのメニューは本にも書いてあるとおり確かに1,000種類を超えそうである。ビールばかりでなくビール・カクテルもある。メニューには1番からナンバーが振ってあり、ページをめくっていくと、最後は1,700番台の番号で終わる。1,800種類弱のビールを中心とした飲み物が記載されているのである。ビールは、樽生・トラピスト・アベイ・ブロンド・アンバー・ランビック・セゾンと分類されて載っているが、リエージュはワロニアの中心都市であるにもかかわらずワロニアのビール、特にセゾンビールの種類が少な目なのが残念である。また、ブロンドのページにもアンバーなビールが掲載されていたりして、メニューの正確性には疑問が残る。樽生ビールは、数えるとなんと41種類もあった。あとになって店の冷蔵庫の中を垣間見ると、ベルギービールばかりでなく、中国の北京ビール、デンマークのツボルグ、日本のキリンビールなど世界各国のビールもたくさん取り揃えられていたが、これらも含めてビールの種類1,000種類と言っているようである。

 さて、醸造規模が小さいワロニアのブルワリーでは、33clの瓶ビールを造らずに、75clの大瓶のみを生産している所も多い。FantomeとかBrasserie de SilenrieuxのSaraなど特に珍しい銘柄の大瓶から2〜3種類の候補を定め頼もうとしたら、「今忙しいので、瓶を取りにいけないからダメだ」という。「ひどい……」はるばるリエージュまで来たというのに。大瓶はどこか別の場所に保管してあるらしい。それじゃといって樽生のビールのから選ぶことにしたが、41種類から選ぶのも一苦労。結局、Duchesse de Bourgogne 、Kwak、Chouffeの3種類の樽生を注文する。

左からKwak樽生(33cl 110BF)、
Duchesse de Bourgogne樽生
(25cl 100BF)、
Chouffe樽生(K'8°のグラス)
(25cl 105BF)
Val d'Heure Cuvee des Lacs(25cl 95)
Grimbergen Brune樽生
(25cl 95BF)
Gigi Speciale
(33cl 100BF)

 デシェシュ・ド・ブルゴーニュDuchesse de Bourgogne樽生は、ブルゴーニュの名のごとく赤ワイン風味。酸味がほどよくて、ほのかな甘味とのバランスもちょうどよい★★★☆。Kwakは当然パウエル・クワックPauwel Kwak(樽生)のこと。ろ過されていて味がきれい。フレッシュで香り高い★★☆。この店もそうだが、シュッフChouffeとだけメニューに表記してある店が多いのには驚く。それは日本でも同じである。ワロニアのBrasserie d'Achouffe SCRL が造るChouffeには、レギュラービールとしてペールエール的なLa Chouffeとブラウンエール的なMac Chouffeの2種類あり、別なものである。他にもChouffe Bok 6666やN'Ice Chouffe、Big Chouffe(La Chouffeのマグナム)がある。出てきたビールの色はペールだったので、ラ・シュッフLa Chouffe樽生と判別。引き込まれるようなフルーティな香りがし、口に含むとまろやかな味わい。ホップの苦味を少し感じ始めたあとに、別の苦味を持った薬草の味がしてくる。はっきりと濁っていて複雑な味わいがある★★★。なお、グラスはそのメニューの豊富さから、すべてをオリジナルなグラスで提供するとはいかないようで、オリジナルグラスがない場合は、オリジナルに似た形状の他の銘柄のグラスを使用してよいことになっている。La Chouffeは、ヴァン・ホンセブルック醸造所の新作ビールであるK'8°のグラスで出てきた。

 それぞれ1杯目のビールを飲み干し、次に注文したビールはGrimbergen Brune樽生、Val d'Hevre Cuvee des Lacs、Gigi Specialeの3種類である。アベイビールのGrimbergen といえば、コクはあるが甘味が強い濃醇なビールというイメージをずっと抱いていたのが、このビールを味わってイメージ一新。全く甘くなくスッキリしたタイプのビールであった。その時は、瓶と樽とではこんなに違うものなのだと理解したのだが、その後、この銘柄のビールを何種類が味わう機会があったが、ビールの造り自体が軽めのスッキリタイプに変化したようである。
Val d'Heure Cuvee des Lacsは謎のビールである。ラベルにはBrie Magotteauxとの文字もある。ラベルの図柄からするとアベイビールのようだ。今はもう生産されていないビールかもしれない。Brasserie de BocqにはVal d'Heure BlondeとBruneの生産の記録がある。出てきたビールは熟成した古酒のような味わいが感じられた★★☆。Gigi Specialeも古そうである。このビールを醸造するBrasserie Gigiは小さな醸造所で、アルコール度数の低いテーブル・ビールに特徴を持ったビールを生産する変わったメーカーである。紅茶のようなさわやかな味で、清楚な感じのビールである。アルコール度数2.5%という低さがコクを感じさせない。強いビールとは対照的なビールであるが、我々には物足りなく映った★☆。
   


Paranoia Rose 6.2%
(33cl 115BF)
パラノイアは偏執病という意味

 最後に、パラノイアParanoiaというビールを注文する。ベルギービールには多数の銘柄があり、そのラベル・デザインを鑑賞することも一つの楽しみとなっている。 注文した「パラノイア」が出てきたが、「ピンクのカバ」のデザインには驚かされた。ラベルにあるピンクのカバは、なんと緑色の斑点に覆われて、どこか病的である。そして、大きなジョッキに入れられて出てきたことは意外であったが、そのオリジナルのジョッキに描かれた斑点付きのカバの絵が、さらに異様な雰囲気を煽っている。悪趣味なグラスである。「パラノイア」の意味を辞書で引くと「偏執ヘンシュウビョウ。▽paranoia」とあり、強烈な銘柄名のビールではないか。
 醸造所は、ヴィラーズVILLERS醸造所で、結構質の高いビールを醸造している蔵元である。以前飲んだTriple Villers(8.5%)はスパイシーで素晴らしい味わいを持つビールであった。このパラノイアはアルコール度数6.2%であるが、味わいは濃醇でコクがあるビールであった。飲んでおいしいビールであるが、やはり、瓶のラベルとジョッキの絵柄が気になってしまう。さらにはParanoia Groenという緑のカバのビールもあるという。変わりダネのビールを求める方にはお勧めかもしれない。
 味わいはやや古いのか熟成感とまろやかさを先に感じるが、濃醇でコクがあるビールであった★★★。
 このビールを含め、ラベルを剥がしてくれるよう店の人に頼むと、たった1分やそこらで剥がして持ってきた。あまりにも早かったので驚いたが、何か特別な剥がし方でもあるのだろうか。
  ★
 はじめ空いていた店も時間ともに混んできた。親子連れもやってきたが、父母とも娘の前でプカプカとタバコを吸い出した。隣のテーブルには老夫婦が腰掛けたが、こちらは葉巻を吸う。我々は煙で非常に辛い状況に陥ってきたので、そろそろ、ブリュッセルに戻ろうということで、リエージュを後にした。

 【データ】La Vaudrée(149 Rue St Gilles, LIEGE)TEL;041 23 1880 

 ブリュッセルに戻る

 ブリュッセルに戻ってきた我々は、ホテルの近くにある聖カトリーヌ教会付近の海鮮レストラン街に行く。今は埋め立てられているが、昔はここまで運河があり、魚市場があったところ。観光客が多いグラン・プラス近くのイロ・サクレ地区のレストランと対照的に地元の人たちが利用する庶民的なレストランが多いという。
 前にも行ったレストラン・ジャックJacquesが休業していたので、隣のレストラン・メドーサMedussaに入る。コースで注文し、生牡蠣6 Huitres、サーモンDuo de poissons a la Provence(Saumon et Cabillaud) 、ムール貝Cassolette de moules au safran、オマールエビ 1/2Homard en:Grille aux fines herbesなどを食べる。お酒は、アルザスの白ワイン。アルザスワインはどこのレストランに行ってもお薦めのワインのようで、メニューには必ず載っている。アルザス・ワインは、葡萄品種が明記してあるのが普通で、メニューにもきちんと載っている。ピノ・ブランの品種が、一番お手ごろで、またお薦めのようである。
 

レストラン・メドゥーサで庶民的海鮮料理を味わう。 6 Huitres
Duo de poissons a la Provence(Saumon et Cabillaud) 1/2Homard en:Grille aux fines herbes
Cassolette de moules au safran アルザスのピノ・ブラン種のワイン

 ★
 ホテルの部屋に戻ると普通ならまた部屋でビールを飲み出すところだが、 この日はリエージュを歩き回って疲れていたのか風呂に入るとみんなそのまま寝てしまった。
 この日味わったビールは14種類であった。2日間の累計で24種類、あと3日で100種類達成はちょっと無理かもしれないと思いはじめていた。      (つづく)


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