第2回ベルギー王国ビール探訪記(6)

ビア・カフェ探訪(1)/ブリュッセルのビア・カフェ

 中世ゴシック建築に取り囲まれ、世界で最も美しい広場と言われるグラン・プラスは、今年 もクリスマスマーケットで賑わっていた。我々はクリスマスグッズやプレゼント用の品々、この季節だけのグリュー・ワインなどを売る露店を巡る。暗くなると建物や広場中央の大きなクリスマスツリーが ライトアップされるので、さらに美しい光景となる。近くにある小便小僧の像も真っ赤なサンタクロースの衣裳を着せられ、街全体はクリスマス一色に染まっていた。カフェもクリスマス用に店内を装飾 し、クリスマス・ビールをメニューに載せている。ここでは今回訪れたビア・カフェを中心にカフェ情報を紹介する。

ア・ラ・ベカッセ A La Becasse シェ・ムーデル・ランビック Chez Moeder Lambic
スピネコプケ in't Spinnekopke ブリュッセルのその他のカフェ

◆ア・ラ・ベカッセ A La Becasse◆  

 観光スポットが集中するブリュッセルの旧市街は比較的小さいので、どこへ行くにも歩いて行くことになる。だから結構の どが渇いてくる。でもジュースを飲もうと自動販売機を探しても、日本では手軽に見つかるはずの缶ジュースの自動販売 機は見つからない。地下鉄や国鉄の駅ぐらいにしかないのである。しかもどの自動販売機もなぜか同じ銘柄のジュース (1メーカーしかないのだろうか)だけ売っている。

 のどを潤す簡単な方法は、カフェに入ることである。人口約1000万人のこの国に5万軒のカフェがある (ちなみに英国では8万軒のパブがある)ので、カフェは すぐに見つかる。缶ジュースや缶ビールとカフェで飲む生ビール、コーヒー、ジュースの値段はあまり違わない(50BF 前後=約200円、缶ジュースは割高)ので安心してカフェに入ることが出来る。この価格設定が、ベルギーでカフェ 文化を発達させた理由の一つかもしれない。

 証券取引所あたりを歩いていて思い出したのが、近くにあるア・ラ・ベカッセだった。ベカッセは、ランビック・ ビールで有名な店である。店の名 BECASSEは鳥の名「シギ」のフランス語である。歩道上に大きな鳥の絵がはめ込まれているのが目印で、 通りから奥まった入口の扉を開けて入る。中はアール・ヌーボーの内装・調度の店。のどを潤すだけなら LA BLANCHE LAMBIC(125BF)がよい。この店のトレードマーク的な陶器のピッチャーで供されるが、これを足が ない厚手の安っぽいガラスのコップに移して飲む。もうこれは、一気飲みに近い形であっという間に飲み干し、思 わず「うまい!」。少し甘酸っぱくてさわや
かな味わいである。2人分の注文でピッチャーにはコップ4杯分入っているので、もう1杯「おかわり」とピッチャーから注ぐ。

 あとからやって来たグループが「6人分!」という注文をすると、巨大なピッチャーにビールが注がれ、 テーブルに運ばれていった。ピッチャーには人数に応じたさまざまな大きさがあって、カウンターの食器棚の上に置かれている。

【データ】 A LA BECASSE (11 Rue de Tabora,BRUXELLES)  02 511 00.96
※ランビックビールの樽生の他に、30種類ほどのベルギービール(瓶)を揃えている。

◆シェ・ムーデル・ランビック Chez Moeder Lambic◆

 シェ・ムーデル・ランビックは、マイケル・ジャクソンの『地ビールの世界』に「メニューには700種類のビールを記載」と紹介されて いる、ベルギーでもトップクラスの品揃えの店である。実は1000種類以上あるともいう。ブリュッセルのサン・ギルST.GILLES 地区にあり、最寄り駅はメトロのミディMIDI駅から3駅目のオルタHORTA駅である。ベルギー到着のその夜、我々はオルタへ直行し、店を見つけた。

 店に入るとジョン・レノン風の風貌のマスターがカウンターの中にいて、お好きな場所へどうぞと我々に合図をした。 我々はカウンターに近いテーブル席に腰を落ち着け、店内を見回す。店内はやや広い方だが照明は暗目。隣のテーブルでは若者が一人でベル・ピルスBELL PILSを飲んでいる。子供も含めた家族連れや大きな犬を2匹も連れて来ている者 (カフェには犬を連込んでもよいらしい)など客層は様々。雑誌なども多数置いてあり、ビール・マニア向けの店と いうわけではなさそうだが、壁や窓にはビールの看板など宣伝用グッズを貼れるだけ貼っていたり、3段の棚がめ ぐらされた壁の周囲に様々なビール瓶を目一杯並べている所はマニアックなビアカフェであることを感じさせる。 カウンターには、冬だけの特製ビールであるクリスマスビールの瓶が大小20種類ほど並べられていて壮観である。 その分カウンターが狭くなって、わずかに残ったカウンターの隅に4〜5人の常連客が集まり、マスターと会話を楽しんでいる。

 我々は、まずカウンターに並んでいるクリスマスビールの瓶をじっくり見て、その中から注文することにした。ほとんど初めて見るビールばかりだったが、評価の高いワロニア地域のアベイ・デ・ロック・スペシャル・ノエルABBYE DES ROCS SPECIAL NOEL(720ml 350BF)を注文。アルコール度数9度のこげ茶色のビールで、甘味と苦味が調和した 非常に濃い味わいのビールに出会い、「ベルギーに来てよかった」と思わず感動してしまった。

 他にはどんなビールがあるのか、いよいよ噂のメニューをもらうことにした。出てきたのは厚さ3pはあろう かというA4判サイズのクリアーファイル。このメニューに1000種類のビールが記載してあると思うと胸が 高鳴る。中を開くと基本的にはABC順に銘柄名が並んでいて、メニュー自体がベルギービールの索引とで も言えそう。一部にビールタイプによる分類も取り入れられていて、例えばランビックビールの銘柄はすべ てランビックの項にまとめられ、その項の中での銘柄名順に並んでいる。相当なページ数なので、メニューをめくるだけでも大変。実際何種類あるのかは確認不能であるが、単純に1つのページに記載してある銘柄数にページ数を掛けてみても、軽く1000種類は越えている。

 我々がなかなか注文をしないので、マスターは「メニューがわからないのでは」と心配して我々の所にやって来たが、 すぐさま我々が持参したTIM WEBB著の“GOOD BEER GUIDETO GELGIUM AND HOLLAND"がテーブルの上に置かれて いるのを見つけて、我々が何者かわかった様子。「どうぞ、ごゆっくり」という風にカウンターに戻っていった。 我々はマスターと何か通じ合うものを感じて、非常に居心地が良くなってきた。

 メニューから注文したビールは、新しい銘柄のロシュフォルトワーズROCHEFORTOISE のブロンドBLONDE(105BF)とアンバーAMBEE(115BF) 、次に幻のトラピスト・ビールの比較という趣向でロシュフォールROCHEFORTE (85BF)とウェストフレテレン・アブト WESTVLETELEN・ABTK(150B)。後者を飲むのは2回目だが、以前飲んだものは1987年の古酒だったので、フレッシュなものを味わいたいとずっと思っていたビールである。最後は再びカウンターのクリスマスビールから選び、 HUISBROUWERIJ BOELENSのビーケンBIEKEN とワロニア地区ナミュール駅前の地ビール醸造所LES ARTISANS BRASSEURSのBIERE DE NOEL を味わう。
 さて、すでに午後11時(日本時間では午前7時)を過ぎ、初日から時差を忘れてベルギービールを堪能してしまった。 帰りのメトロは終電の数本前だった。なお、店を出たあと、大事な記録メモを店に忘れたことに気付き、 すぐに戻ったが見つからなかったので、後日再びこの店を訪れることを約束して再び店を出た。
      ★

いっぱい飲みました。 セゾン・デリーゼは結構レアモノかもしれない。

 滞在5日目、再びシェ・ムーデル・ランビックへ行く。マスターは我々を覚えていてくれて、 「手帳はなかった」と教えてくれた。仕方がない。さて、この日も様々なビールを飲み比べることにした。 まずはワロニアのビールからセゾン・デリーゼ‘95年夏 SAISON D'EREZEE BIERE DE 95 L'eTe(750ml 300BF)、 次にランビックビールの傑作ドリー・フォンテネン(蘭 DRIE FONTEINEN,仏 TROIS FONTAINES,「3つの泉」の意)のクリークKRIEK (750ml 350BF)。これらを飲み切る前に、さらにワロニアのシリー醸造所のセゾン・ド・シリーSAISON DE SILLY(70BF)とスコッチ・ド・ シリーSCOTCH DE SILLY樽生(70BF)、同じワロニアのルフェーブル醸造所のセゾン1900(70BF)を注文。マスターはこの 注文の仕方に驚いたようであるが、飲み比べる旨を伝えるとニコニコしてビールを取りに行った。なお、 「セゾン1900は最後の1本だったので、あなたはラッキーだよ。」とのこと。最後は日本でも有名な銘柄デリリューム・ トレーメンスDELIRIUM TREMENSの樽生(100BF)とワロニアの新しいビールであるカンタン(クインティー)・アンバー QUINTINE AMBEE(130BF)を注文した。

 メニューの樽生ビール(BIERES AU FUT)のページを見ると常時10種類置いているようで、 カウンターのビア・サーバーの本数を数えてみても確かに10本。樽生ビールをこれだけ置 く店も珍しい。メニューに印刷してあるビールの半分は黒く消され、その上に手書きで新しい銘柄が記載してある。 樽生ビールのメニューは入れ替えが早いようだ。

 ベルギービールはそれぞれの銘柄のオリジナルグラスで出すのが基本だが、この店はすべてのオリジナルグラスを揃えてはいないようだ。1000種類のビールがあるということは1000種類のグラスを用意しなければならない ということで、それは不可能であろう。しかし、オリジナルグラスの形をちゃんと覚えて いて、それが用意出来ない場合は、同じ形状の他銘柄のグラスで代用している。グラスにプリントしてある絵や銘柄名は注文したビー ルと異なるが、香りや味わいを感じるには全く不都合がないというわけである。

 ベルギービールは毎月新しい銘柄が発売さ れている。将来再びこの店を訪れた時、メニ ューにはいったい何種類のビールが掲載されているのか非常に楽しみである。

【データ 】 CHEZ MOEDER LAMBIC(68 Rue de Savoie,BRUXELLES)
02 539 14.19 16:00〜4:00  評価:CAFE  ★★★ BEER ★★★★★

◆スピネコプケ in't Spinnekopke◆

 エスタミネEstaminet-Restaurnt anno1762と建物正面の壁に書いてある。料理の有無、さらに本格的料理なのかスナック程度なのかで、カフェ、エスタミネ、ビストロなど店の肩書きが異なってくるが、レストラン以外はカフェと呼んでもよい。 店内はこじんまりとしていて薄暗いが、壁の装飾灯の間接照明がいい雰囲気を醸し出している。テーブルクロスは赤のチ ェック模様である。

 スピネコプケは“Cuisine Facile a la Biere(『ビールで作るやさしい料理』)"の著者Jean Rodriguez(J.ロドリゲス) が経営する店として有名なので、我々もさっそくビールとビール料理を味わうことにした。注文した料理は以下の2品である。         

鍋いっぱいのムール貝はうれしい。 野うさぎのグーズ煮

@ Moules a la Biere de Maredsous(535BF)=アベイビールのマレッツを使用したムール貝のビール蒸し。タマネギ、 リーキ、セロリと一緒に蒸したムール貝に、アメリケーヌソースのようなオレンジ色のソースがかけられている。 ムール貝専用の大鍋でいっぱい 出てきたのは良いのだが、殻から身を取ろうとするとソースがベトベト手に付いて食べにくい。 味はコクがあって旨く、何個でも食べられる。 

A Lapin a la Gueuze(465BF)は野ウサギのグーズ煮。ソースは別で、数種類あるソース から1つ選択する。 ジビエの季節にぴったりのベルギー郷土料理である。 

 ビールのメニューには95種類のビールが掲載されていた。その中から上記の料理に合わせ ようと、次のビールを味わった。グルデン・ドラークGULDEN DRAAK(130BF)は、黒地に金色の ドラゴンの絵が描かれたラベルで、それが白く塗られた瓶に貼られていて印象的である。アルコール度数が10.5% もあるストロング・ダーク・エールである。ウール・ビールOERBIER(130BF)は、デ・ドレDE DOLLE醸造所のダークなビールで、毎週末に趣味でビールを造っているというベルギーで最も個性的な地ビールメーカー。この2種類は こってりした料理に合いそう。樽生ビールの項からは、銘柄不明のLambic le Verre(95BF) を注文したが、 カンティヨン醸造所のタンブラー状のグラスでビールが出てきたこと、酸味が強いことから、たぶんカンテ ィヨン醸造所のランビックであろう。キュー・デ・シャリューQUEUE DE CHARRUE(「鍬の柄」の意)とデュシェス ・ド・ブルゴーニュDUCHESE DE BOURGOGNE(95BF)は、どちらも西フランダー ス州のヴェルハーゲVERHAEGHE醸造所のレッド・ビールである。これら3つのビールは酸味があるので、 野うさぎのグーズ煮にはぴったりの選択であった。トリペル・カルメリート TRIPEL KARMELIETは「ビールは 3つの穀物(大麦・小麦・オーツ麦)で作る」という17世紀のカルメル会修道院のレシピに 従ったビール。以上6種類のビールを味わったが、そのあとちょっとした事件があったので、この店を急いで出ることになった。

デシェス・ド・ブルゴーニュ キュー・デ・シャリュー トリプル・カルメリート
【データ】 IN‘T SPINNEKOPKE(1 Place du Jardin aux Fleursue,BRUXELLES) 02 511 86.95
評価:CAFE  ★★★★ BEER ★★★★★

◆ブリュッセルのその他のカフェ◆

リュネット ブールマン

 今回もぜひ訪れたいと思っていたカフェの1つがビア・サーカス LE BIER CIRCUSであったが、時間がなくて行くことが出来なかった。 ブリュッセル市内では最も多くのビールを揃えているが、その品揃えは年々増えているようである。たまたまビア・ショップで見つけた 店のチラシには250種を揃えると書いてあったので再び紹介する。

 グラン・プラス周辺にはカフェが集中しており、位置を確認する目的でそれらのカフェを回った。同じ通りにあるヴュー・タン AU BON VIEUX TEMPSとリマージュ・ノートルダムA L'IMAIGE NOSTRE-DAME(前回訪問)、証券取引所をはさんで向かい合うファ ルスタッフFALSTAFFとタベルネ・シリオTAVERNE CIRIO(前回訪問)、モネ劇場隣のリュネットLA LUNETTEなど。サン・ギル地区の オルタ駅近くにはブールマンLE BEULEMANSがある。      

【データ】 LE BIER CIRCUS(89 Rue de l'Enseignement,BRUXELLES) 02 218 00.34
VIEUX TEMPS(12 Grasmarkt) 02 217 26.26
L'IMAGE NORTRE-DAME(8 Grasmarkt) 02 219 42.49
TAVERNE CIRIO(18 Rue de La Bourse) 02 512 13.95 10:00〜
LE BEULEMANS(10 Av.P.Dejaer) 02 53 34.95
注:ビア・カフェの紹介後に記してある【データ】欄のCAFEとBEERの評価は、客観性を持たせるため、TIM WEBB著「GOOD BEER GUIDE TO BELGIUM AND HOLLAND」(第2版)の評価を記載した。我々の印象との相違も当然あるが、参考になる。★★★★★が最高得点。

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