第1回ベルギー王国ビール探訪記(7)

ビール醸造所探訪(1)

 ベルギービールの独特な香りや味わいの秘密を知るには、その醸造工程を知らなければならない。今回我々は、3つの醸造所を訪ねた。


カンティヨン醸造所

カンティヨン醸造所 多彩なベルギービールのなかにあって、ユニークな製法で造られ、きわめて特徴的な味わいを持ったビールが、ランビックビールLambic Beerである。ランビックビールは、ブリュッセル近郊だけに生息する野性酵母(ワイルド・イースト) の醗酵を利用して醸造され、その味わいは、スペインのシェリー酒やフランス・ジュラ地方のアルボワ・ワインに似た酸味と樽味を持ったビールである。

 我々は、このランビックビールの醸造所のなかでも、昔ながらの製法で辛口の酸っぱいビールを造っているブリュッセル市内にあるカンティヨン醸造所を見学に行った。カンティヨン醸造所は、ブリュッセル南駅近くの市街地にあり、グーズ博物館(グーズはランビックの最も基本的なブレンドビールの名称)という観光スポットにもなっている。壁面とガラス窓に “>CANTILLON"と表示されたさほど大きくない建物があって、我々は、木製の出入口ドアを押し開けて醸造所 の中へと入った。中へ入ると、いくつかのテーブルと椅子、中央にはストーブがあって、受付を兼ねた売店のある一室だっ た。醸造所のマダムとおぼしき女性が奥から出てきて、まず、壁面にある醸造過程を写した写真の説明を英語でしてくれる 。ひと通りの説明の後、普段なら醸造所の各室を案内して一緒にまわってくれるのだろうが、この日はちょうど仕込み作業 の忙しい時期だったので、自分たちで見学して欲しいとのことだった。パンフレットの説明に合わせて、各室の壁には醸造過程順に番号がふってあるので大丈夫だという。

醸造工程1
樽発酵と熟成

 麦汁タンク、煮沸タンク、冷却槽のある各室を我々は順番に見学した。まず、始めに麦汁が造られる。カンティヨンのランビックビールの麦汁は、小麦35%と発芽した大麦65%の割合で、これを砕いて50〜70℃の湯に2時間半かけて溶かして造られる。

 次にこの麦汁は煮沸タンクに送られ、ホップを加えて少なくとも3時間半煮込まれ麦汁濃度が高められる。我々が訪れた時、ちょうどこの作業が終わったあとで、醸造所のオーナーのジャン・ピエール・ヴァン・ロイ氏が、これらのタンクを洗浄中であった。

 さて、煮沸終了後、麦汁は屋根裏部屋にある銅製の浅くて広い冷却槽にポンプで送られ流し込まれる。ここでの冷却過程で、ランビックビールを造るのに不可欠な野性酵母が投入される。投入されるといっても、屋根板に開 けられた無数の穴から吹き込む外気にさらすことで、空気中の野性酵母を自然に麦汁の中へ落とし込んでいるのである。

 屋根裏部屋から、我々は、木樽醗酵が行われている室へと足を進めた。木樽での1次醗酵は、薄暗い天井や梁には 蜘蛛の巣、床には埃の降り積もった場所で行われる。小さな昆虫や蜘蛛、埃は、ランビックを造るのに重要な役割を果たす野性酵母が生きていく上で必要なのである。

 冷却槽から木樽に詰め込まれた麦汁は、3日後には自然醗酵を始める。実際、我々の目の前には、詰め口から盛んに醗酵中の泡を吹き出している木樽がいくつもあった。3〜4日間の醗酵により麦汁は味わいのないランビックに変わり、 これを1年間、2年間、または3年間さらに木樽で熟成させることで、ブレンド前のグーズGueuzeの素となるランビックビールが出来上がるのである。

 最後に瓶詰の機械がある室を見学する。熟成期間の異なるランビックは、ブレンド後、コルク栓で ビン詰めされて、瓶内での2次醗酵により、グーズビールとなるが、このビールが市場に出るまでに は、さらにセラーで2年間の熟成を要するという。

 ひととおり醸造所内を見まわった後、再び最初の受付の室に戻り、できあがったばかりのグーズを1杯いただく。木樽の香りが力強く、酸味のさわやかな味わいのあるグーズであった。このカンティ ヨン醸造所では、グーズビールの他、木樽で醗酵中のランビックビールにチェリーを漬け込んで造られる“クリーク Kriek”、同じようにキイチゴを漬け込む“フランボワーズ Framboise(商品名はロゼ・ド・ガンブリヌス)”、マスカットを漬け込む“ビネロン VIGNERONNE”などのフルーツビールやキャンディシュガーとカラメルを加えて造る“ファロ Faro”などの製品を売り出しているが、多くのメーカーが甘味を加えて飲みやすくしたランビックビールを造っている中、どれも伝統的な純正なランビック ビールの味わいが楽しめるビールである。

 ベルギーのビール醸造所は、一部の大手メーカーを除けば、その多くは地ビールと呼んでよいくらい の規模であり、我々が訪れたカンティヨン醸造所もほとんど家族経営で行われていた。我々が試飲をしているすぐ脇では、奥さんと娘さんと思われる女性2人が、ビールの瓶口を銀紙で包む機械に、1本1本丁寧 に瓶口を差し込んでは、巻かれた銀紙をチェックしながら箱詰めをしている。室内には、クリスマスツリーが飾られており、何ともアットホームな雰囲気に包まれている。ここを訪れる日本人は、まだ少ないと思う が、きっと誰をも心暖かく迎えてくれることだろう。
 
 また、この醸造所のお土産として面白かったものに、“Bier Confiture"と いう各種のランビックビールジャムがあって、いくつか購入してきた。グースジャムは、まさしくこの醸造所のグーズビールの味と同じく非常に強い酸味を持ったジャムであった。他のジャムもビールの味に対応して酸っぱいが、好評だった。

       (与力)

【データ】 Brasserie Cantillon, Brussels Gueuze Museum
  (56 Rue Gueuze,BRUXELLES) 02 521 49.28 FAX02 520 28.91

目次

ベルギービールの魅力
酒蔵奉行所関連

Copyright(C) T.Nawa 1999 (bugyo-nawa@geocities.co.jp)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送